小水力発電だけではなくこの島国での営みにおいて、水の循環がすべてのベースになっていると考えていてよい。雨によって地域にもたらされた水は、土地をうるおして地形に沿って小さな流れとなり、交わった流れはだんだん大きな川となりながら土地を侵食し、山から流れ出た川は蛇行しながら土砂を供給して平地を形成する。この島国においてはだいたいこんな感じで、最後は海へと流れ込む。そして太陽によって蒸発した水は雲となり風に運ばれて、またいずれかの土地で雨となるという水の循環がある。
この現象が続く火山列島では、隆起する山は水によって削られ、平野は水であふれる土砂の供給を受け続けてきた。「山は崩れ、川は溢れる」ことが自然の理である。また「日は上り、雨は降り、緑は育まれる」ことへの信頼が農的な営みの始まりとなり、崩れる山と溢れる川とのつきあいをしながら、この島国で人は暮らしを営んできていた。
小水力発電の候補となる土地は、この水の循環の中で水が落下するエネルギーを有効に活用できる可能性がある場所である。「水のエネルギーがある」ということは、「さまざまな水害のリスクを抱えている」と言い換えることができる。ただし、そこにはすでに数世代以上にわたる人の地域での営みがあったということを軽んじてはならない。「絶えることのない人の営みがあった」ということは、「これからの未来への持続可能性が秘められている」とも言い換えることができるだろう。
地域の水の恵みを分かち合い、地域の水のリスクに対してともに対処することがその地域コミュニティが成り立つはじまりであったのかもしれない。ともあれ、地域に先人の方々から引き継いできた水利防災の施設や仕組みがあるということは、その地域の人達の実績が存在しているのである。そこにさらに小水力発電という新しい技術を導入することは、短期的利益だけではなく将来そこで暮らす人々への持続可能な未来を継承することである。
気候は変動し、災害は発生する。自然はうつり変わるものであるが、「日は上り、雨は降り、緑は育まれる」という絶え間のない水の循環に根ざしながら、地域の未来を自分のこととして取り組まれる人々に、少しでもお役に立つことができれば有難いと思っている。
文責 山下輝和
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