地域主体による地域のための小水力発電プロジェクトを通じて、地域の方々から学ばせていただいたのは、プロジェクトは地域にある平等を崩してはならないし、プロジェクト後の成果については地域の皆さんに平等が担保されなくてはならない、ということである。後者についていえば、単純に行為の結果として地域に勝ち負けを生じてはならないということで、SDGsでいうところの「だれ一人取り残さない」姿勢と同じであるのでわかりやすい。
ただ前者でいう「地域の平等」とは、いわゆる西洋民主主義的な平等の概念とはいささか異なっているので、注意をしていただきたい。
宮崎県日之影町に大日止昴小水力発電所を建設した際の「大人(おおひと)プロジェクト」で最初の説明会を開催した時に、緊張感を発していた慎重派の方々に直接話をうかがいに行ったところ、小水力発電事業そのものではない懸念を引き受けることができた。一つ目はプロジェクトの対象となる農業用水路が、昭和初期に開削したもので、その費用の返済が平成になるまで続いたことから、次世代への負担を課さないようにすること。二つ目は「地域の平等を崩さないでほしい」ということであった。ここでいう地域の平等とは、この農業用水路を管理する大人用水組合のルールであって、よいことであっても悪いことであっても、各自所有する水田の面積に応じて対処する。つまり広い水田を所有する家は応分に多く、少ない面積の家は応分に少なく受益や負担をするというものである。
大人プロジェクトが進捗した結果、事業主体として発電専門の農業協同組合を設立して、保証人を要しない(これも平等である)資金調達を可能にするスキームにいたったが、実は頭を抱えてしまっていた。用水組合の構成単位は農家に属した人で水田面積に応じた平等、協同組合の構成単位は農家の個人であって組合員はみんな平等、ということは小水力発電の導入にあたって農業用水路の管理主体が新しい協同組合になってしまうとこれまでの地域の平等は失われてしまうことになってしまう。しかし、次世代への負担を残さないためには有限責任の法人で資金調達をする必要があり、無限責任の任意団体である用水組合が事業主体であれば一つ目の懸念を解決することができなくなってしまう。
この矛盾は、鳥取県の別府電化農業協同組合(鳥取市にある別府発電所の事業主体)の方々との出会いからの学びで解決した。農業用水路の管理主体(用水組合)と小水力発電事業主体(発電農協)は別々の主体であって、発電事業者は用水組合に用水路と水の使用料(水代)を支払って発電事業を営み、組合員が全員平等な意思決定を行うというスキームである。用水組合は毎年水代を得て、これまで通りの平等のルールに則って用水の維持管理を行っていく。新旧二つの主体が、それぞれの平等のルールにもとづいて地域活動を行うことになったのである。
もしこのようなスキームを採用せずに用水組合を発電専門農協に改変することを提案していたら、はたして地域の方々の全員参加の合意を得ることができていただろうか。いまになっても自信がない。用水路開削からの地域の方々の営みのルールである平等が担保されたことは、やはり重要であったと振り返っている。
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